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エゾコガムシ
エゾコガムシです。
体長16~18mmの、コガムシをほんのちょびmm大きくしたガムシ。上からパッと見るには似ていて区別しづらいですが、コガムシが平野部で確認されるのに対して、本種は山地で確認されるので、採集したところである程度見切りはつけられるかと思います。
エゾコガムシはコガムシほど採集が容易なわけではなく、僕はまだ自力で見つけたことが一度しかありません。
どちらにしても泳ぎ方や立ち振る舞いは非効率的、乱雑、いちいちクリティカルで目もあてられないほど無様で、つまり平たく言うと、超かわいいです。
エゾコガムシ(左)とコガムシ
左上がエゾコガムシで、右下がコガムシです。
エゾと名前がつくのでついつい日本の北の方なイメージを持ちますが、実際は九州地方にも生息しているようなので、そんなことないようです。 この場合の正しい解釈の仕方はむしろ我々側にあって、我々の目線をもっとぐんとローカライズして、「俺の村の北にはいい山があるんだ」的なロケーションに移動して自分の立ち位置を変えてあげると、地域はどこであれ山地で取れればエゾコガムシとなってしっくりきます。 南から北(えぞ)へ攻めていけばいいのですからさっきから僕はなにを言ってるのでしょうか!
エゾコガムシ(左)とコガムシ
左がエゾコガムシで、右がコガムシです。
裏から見るとどこらへんがどこ違うか分かっていいですね。これならエゾコとコでついお手玉してしまって、何巡目かにハッと悔い改めても、いつでもちゃんとどちらがどっちか明瞭なエゾコとコがいます。 ちゃんととり返しがつきます。ガムシはとても優しい生き物なんですね。

でもエゾコガムシ、コガムシとはまた別に、エゾガムシ、ガムシなんていう近似種関係もあって、こちらのエゾはちゃんと村の山とか比喩を持ち出さないでも北の方にしかいなくって、とたんに見極め困難でお手玉禁止的なムードが漂いますが、 どちらにしても超かわいいので、お手玉したくなる気持ちは分かりますあーもー!

陸にあがりたいエゾコガムシ
16年前の10月初旬のある日。甲羅干しの頻度がグンとあがって、しょっちゅう水の外に出るようになります。手奥のぼんやり映っている黒いのもエゾコガムシです。飛翔傾向も強くなります。
この時期、自然下でもエゾコガムシはめっきり見ることができなくなります。いったいどこへ行ってしまうのでしょうか。
飼育下ではコガムシも陸上越冬するので、エゾコガムシもこの際えいやーで陸にあげてみます。えいやー。
陸にあがったエゾコガムシ
陸にあがりました。敷き詰めたピートモスの上。一瞬どうなってるのか分からず躊躇したのち、おもむろに顔を土につけます。顔を土につけてうごめきだします。
土に潜ったエゾコガムシ
それからもぞもぞしながら、あっという間に潜っていきます。そっか、潜りたかったんだねーというような、明確な意思の伝わってくる潜り方でした。
あとは来年まで、しばしのお別れです。元気に目覚めてくれることを信じて。
陸にあがったエゾコガムシ
11月。思わず回収を忘れていた別のエゾコガムシです。えいやー、と上陸させてみました。
土に潜ったエゾコガムシ
即、潜っていきました。こちらも、しばしのお別れ。来春まで、元気でね~。
土の中のエゾコガムシ
実は、潜って数日後に一匹だけ掘り返してみました。深さ4cmくらいのところでそのまんま埋もれていました。確認して、にんまりして、またすぐ埋め直しました。へたな刺激で目が覚めてしまっては大変です。
ふと、コガムシや一部のゲンゴロウは、夏にいったん土に潜って(幼虫から成虫になるときです)、元気に活動するための準備をおこないますが、冬にもいったん潜って、また元気に活動するための準備をおこなうのだと思うと、なんだか感慨深い気持ちになます。
動機は違えど、やはり土に潜るのですね。違った理由で、違った季節に潜り、そして同じように土から這い出してくるのです。
期待に胸を膨らませて。
起床したゲンガムシたち
そして来春です。スプリング・ハズ・カム。生命の回廊が躍動します。エゾコガムシも例外ではありません。土をほじくると、元気に起き出してきました。
本当は越冬用土にたくさん水をかけて、あとはじっと出てくるのを待つつもりだったのですが、僕も春モードなので、待つとか、そういうのはできませんでした。
ほじくって歓喜。
'08/10/20~'09/03/19の冬眠なので、ほぼ5ヶ月、半年近く眠っていたことになります。すごい仕組みですね。
起床しなかったゲンガムシたち…
しかしそうでないものもいます。春の到来は、すべてに等しく訪れるわけではありません。この写真のゲンガムたちは、残念ながら春を迎えられませんでした。
おそらく僕の管理の仕方にも問題があったのでしょう。暖かい冬の日がたくさんありました。
本当だったら、生息地の冬はこんなには暖かくなかったでしょうか。本当だったら、もっと深いとこに潜っていたでしょうか。本当だったら、もっと早く起きていたのでしょうか。
何匹かのエゾコガムシが、フライングで土から出てきていたのを僕は確認し、そして静観し、そのまままた潜っていったのを知っています。今思えば、あれはなんのサインだったのでしょうか。
ともあれめくるめく春がやってきて、一部はその訪れに躍動し、一部は虚無の深遠に還っていきました。
 

エゾコガムシ1齢幼虫
起き出してきたかと思ったのもつかの間、それから1ヶ月も経たないうちに幼虫が孵化しました。
本当は別の専用水槽から孵化するはずだったのですが、いつの間にか脱走して、一個下の水槽に移っていたようです。びっくりです。管理不足です。春はみんな飛びたがります。分かっていても懲りずに失敗します。
ともあれ孵化しました。コガムシ同様、エゾコガムシの幼虫も、成長はすこぶる早いのではないかと勘繰り中です。
ヨコエビを捕まえたエゾコガムシ1齢幼虫
回収後、ヨコエビを与えてみるとさっそく捕まえました。ヨコエビを捕まえた瞬間のエゾコガムシ1齢。
以前、とある川沿いの人工池でコガムシとハイイロの幼虫が混生していたのですが、そこでコガムシの幼虫がハイイロの幼虫を捕食しているのを目撃したことがあります。コガムシの幼虫は貪欲です。
マメゲンの幼虫なんかはヨコエビ捕まえるの下手ですが、エゾコガムシはしっかり捕食できそうな感じです。
ヨコエビを咀嚼するエゾコガムシ1齢幼虫
すぐ上でエゾコガムシはヨコエビをしっかり捕食できそう、と書きましたが、やっぱりそうでもなかったです。 たくさんヨコエビをいれておいても、そのうちヨコエビが警戒してなかなか捕らえられなくなったせいか、ヨコエビの数は減らないし、エゾコガムシの共食いが頻発しました。
そのため、ヨコエビをごにょごにょして弱らせてから与えるようにしました。ヨコエビ、なかなか難しいエサです。
ヨコエビを捕食するエゾコガムシ1齢幼虫です。水面上にヨコエビを持ち上げこねくりあげながら体外消化して咀嚼していきます。すごい仕組みです。
エゾコガムシ2齢幼虫
2齢になったばかりのエゾコガムシ幼虫。1齢期間は7日間でした。
コガムシは同じ7日間で上陸までいっていましたが、この差は単に種の違いによるものだけでなく、季節や飼育下の条件の違いなど、いろいろあるのでしょう。
ともあれ無事に加齢。
ミズムシを咀嚼するエゾコガムシ2齢幼虫
2齢になって大きくなったし、ヨコエビでは心許ないので、急遽ミズムシに変更です。
うまうまもぐもぐ。これおいしいよーと、僕に向かってアピールするように、水からエサを出してアピールします。本当は違いますが、そう思うとかわいいです。
アメザリ稚エビを咀嚼するエゾコガムシ2齢幼虫
ためしにアメリカザリガニの稚エビも与えてみました。こちらもおいしくいただきます。ためしになどと考えず、もっと捕まえてくればよかったです。
ミズムシを咀嚼するエゾコガムシ2齢幼虫1
再びミズムシです。うまうまもぐもぐ。みてみてーうまいよー。ほらー。
ミズムシを咀嚼するエゾコガムシ2齢幼虫2
あれ。ああっ!どこ!?僕のうまムシ。
ミズムシを咀嚼するエゾコガムシ2齢幼虫3
あった!僕のミズもぐ。うまうま。
少し大きい虫で、しかも節足類だとバラけやすいのか(?)、こういうのをエサにするとときどきこうして落っこどしてしまうようです。何回か目撃しました。
サシを捕まえたエゾコガムシ3齢幼虫
サシを捕まえたエゾコガムシの3齢。感触がゴムみたいで慣れないのか、噛みどころがなかなか決まらずちょっと苦戦していましたが、それ以外はサシも普通にいけるようです。
2齢から3齢までの期間は10日間。
サシを咀嚼するエゾコガムシ3齢幼虫
今までに与えたエサより何倍も時間をかけて、何度も何度も飽くことなく咀嚼を繰り返し、ゆっくりと飲み込んでいきます。
ゴムみたいで食べづらいのでしょうか。濃厚すぎるのでしょうか。
それとも食べ終わるのがもったいないのでしょうか。
上陸前のエゾコガムシ3齢幼虫
じゅうぶん栄養をとったエゾコガムシの3齢幼虫は、ふとエサをあげても嫌がるそぶりを見せるようになったので、少し早いかなと思いつつも上陸させてみました。
ガムシ系の幼虫は体が少し伸び縮みするので、体長を測るのが難しいですね。
上陸するエゾコガムシ3齢幼虫
するとすんなりと潜っていきました。よかった。いってらっしゃい。また後でね。たぶん、1週間か、そこいら。
3齢から上陸するまでの期間は6日間。トータルで23日。成長は僕の勘繰りと違ってだいぶかかりましたが、たくさん観察できてよかったです。
エゾコガムシの蛹
潜ってから7日目。無事に蛹になりました。
実はもっと早く蛹になっていると思って、早くに暴いてしまい、前蛹のエゾコガムシに体をぷるぷる震わされて怒られてしまいました。 しかもあまりに想定と違ったところに潜っていたため、蛹室も大きく壊してしまいました。
せいいっぱいの反省をこめて、代わりに新しい蛹室をハンドメイドしました。固さもいい具合にできたのですが、はたして気にいってくれるか心配でした。 なので、無事に蛹になってくれてホッとひと安心。このまましゃきしゃき羽化しちゃってねー。
しかし、堀り返すときは本当に慎重にやらないとダメですねー。
エゾコガムシの蛹
潜ってから10日目。だんだんしゃきしゃき(?)してきました。
羽化が近づいてくるとだんだん体の色が黒ずんできますが、死んでしまった蛹も黒ずんでしまうので、いつも一瞬あせります。
あせって、ホッとして、またそっとフタをします。
エゾコガムシの羽化
潜ってから11日目。やりました。
どうやら無事に羽化できたようです。蛹室が壊れてしまったときは、僕の中の一番壊れやすい部分も一緒に少し壊れましたが、なんとかこれで持ちつ持たれつです。
いつもは見た目が地味なガムシだって、羽化したばっかりはこんなにもつやつやのピカピカで、きっとなにか目に見えないものに、無償のあふれるような祝福を受けているのでしょうね。
エゾコガムシの羽化(裏側)
裏側からも1枚。
エゾコガムシなのにコガムシみたいに赤味がかっていますね。祝福の余韻冷めやらず。これからしばらく、体が黒くなってしっかり外殻も硬くなるまで、一匹で静かに暮らしてもらいます。
孵化から羽化までにかかった日数は34日間。意外と長かったですが、そのあいだなんとか面倒をみてこれたという安堵感は、その後の成虫への愛着へと加味されて、楽しみもひとしおです。元気に楽しく生きてほしいです。
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